無題。

夏の大三角形の三点を、はっきり黙視できる程度の、晴れ。


♪「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
♪君が指さす夏の大三角
♪覚えて空を見る


具体的に、東の天宙に輝く三星を見て。
どれがデネブで、どれがアルタイルで、どれがベガなのか。
きっちり識別して確認できるほど、綺麗な夏の大三角
天の川は見えませんでしたけれど。


そんな、七夕の夜。


織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)の仲に割って入る間男(デネブ)、とか。
数年前に、あっちの四コマ漫画で描いた自分のネタを、フッと思い出して。
くすっ、と、手前味噌に小さく笑った、数瞬の後。


これまでの人生で一度も吐いた事が無い類の、深い、深い溜息を吐きました。


思えば。
物心と知識を身に付けた僕が、一番最初に黙視で実感した星座は。
北極星でも無く、北斗七星でも無く、カシオペア座で。
その次に把握したのは、オリオン座の三星でした。
……そんな、カシオペア座とオリオン座を教えてくれた、一人の友人の話。
……そして。
……過去、夏の大三角を教えてくれた事もある奴なのですが。
……あの当時は、どれが夏の大三角なのか、まったく理解ができませんでした。


7月5日の夕方、大阪府高槻市の片隅で、交通事故があったそうです。
その事故に巻き込まれて死亡した人の名前が、年齢が。
僕の旧知の知人と、まったく、一緒でした。
「もしや……」とは思いつつ、でも、ニュース番組のフラッシュ情報だったので。
(今日一日に入ってるニュースを、三分ぐらいのダイジェストで、手早く伝達。)
確認する術も無く、悶々と無事を祈っていたのですが。


七夕の夜、母に、一本の電話が入ったそうです。
『かつての同僚の○○さんの息子さん、交通事故で亡くなったって……』
「えっ……?」


その時に、初めて知った事なのですが。
僕が中学生の頃、僕の母と、その旧友の母は、同じ職場(小学校)で共働していたそうで。
互いに難しい年齢の男の子を持つ保護者同士、懇意の仲だったそうで。
僕と旧友よりも深い絆で、母親同士は、密に繋がっていたそうです。
だから、母にとっては、我が子を喪失したのと同様の襲撃だったそうです。
むしろ、我が子(僕)は健朗だからこそ。
旧友の母の悼みを、どう受け止めて慰めるべきか、悩んでいます。


片や。
僕と旧友の関係は、どう説明すれば良いものか『普通の友達』でした。
僕と『普通の友達』でいられるぐらいの人物でした、と、説明すれば。
旧友と僕の関係の、微妙な親密度のニュアンスが伝わるだろうか。
具体的には、中学校を卒業してから概算20年、ただの一度も連絡は取り交わさず。
それでも。
急逝の一報を受けて、こうして、日記で報告せねばならないと思うほど。


北斗七星を見た時には、死兆星が見えるとか、見えないとか、で。
「あー死ぬわーwオレ死ぬわーwww」と、無邪気かつ残酷な冗談で笑い合えるほど。
そんな感じの、中学時代の『普通の友達』でした。
中学生だからこそ、軽々しく吹聴できる、ジョーク。


よもや、この年齢にして、旧友には死兆星が見えたのだろうか、……とか。
考えるでも無く、想うでも無く、ものすごく、色々な事を考えて。


これまでの人生で一度も吐いた事が無い類の、深い、深い溜息を吐きました。


ああ。
人は、突然、死ぬんだな、……って。
人は、絶対、死ぬんだな、……って。


故人の、旧友の、御冥福を心より御祈り申し上げます。