もーにん…

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谷啓
飄々と語る
美の壺


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うん。
やっぱり、JAZZは良いね。
デキシーランドスタイル、ビッグバンド、ニューオーリンズスタイル、などなど。
ジャンルに関するゴタクは、合切、度外視して。
ただただ、JAZZ、……ってだけで、もはや理屈は要らないよね。


坂道のアポロン


JAZZ、って意味では、素敵な作品だと思います。
ノイタミナ』枠で見る価値っつーか、意義の大きい作品です。
アニメシャワー』とか『マンパ』とか。(いずれも、関西の場合。)
見る時間が異なると、また、ニュアンスが変わるのかなー、とか。
味わいの底が地味に深いので、ちょっとだけ、驚きました。


もっとも。
カウボーイビバップのスタッフが……」って宣伝文句は、腑に落ちないけどな。(笑)
……何故なのかしら。
……主軸は、どっちも、JAZZなのに。


野暮な部分に箸を突っ突いて、瑣末なツッコミを御容赦いただけるなら。
文化祭で、件の二人の王子様が、舞台の上で颯爽と演奏した『Moanin'』。
『ルソンの壺』だか『美の壺』だか、NHKでも御馴染の、JAZZの名盤。
個人的には「あと一人、ウッドベースが欲しいなァ」とか。
何様だ、俺。……みたいなコトを、評論家まがいの視点で考えていたですが。(笑)


取り敢えず。
アニメオタク然とした、いつものボクの悪癖の「何様気取り」は、それとして。
知る人ぞ知るJAZZの町、高槻市で生まれ育った音楽感性から感じた、素直な感想。


あの、二人の王子様。
もう10年ぐらい、音楽を介して付き合いがある同志の、阿吽の呼吸で演奏していたのが。
なんつーか、作品のストーリーの軸の流れと展開から、逆算して。
ものすごい、中途半端な違和感でした。(笑)


クラシック畑で育ったボンが、いきなり、短期間でJAZZのフィーリングを身に付けた事については。
リアルでもあり得る、許容範囲の御都合主義の、違和感の無い展開なのですけれど。


ィャ。
ボン(薫)とバンカラ(千太郎)は、さ。
ひと夏の青春の、出会って間も無い高校生が突貫で組んだピアノデュオだろ?
だったら、もっと、こう。
不慣れな関係だからこそ織り成せる、逆説的なフィーリングってモンが、ですね。
……みたいな事を考えてしまいました。


そりゃ、まぁ、アニメなので。
実際に演奏しているのは、ボクやアナタと同じく、普通の人間であり。
普通の人間だけど、音楽に精通したプロなので、それなり以上の演奏になるのですが。
逆に、普通の人間だけど、音楽に精通したプロだからこそ。
「出会ったばかりの高校生二人による、斬新なフィーリングのリンク」が出せなかったのかな、と。


実際にピアノとドラムを演奏していた、マイクの向こう側のプロの人は。
双方、10年来の付き合いがある仕事仲間とか、そんな感じの関係で。
うっかり、そのプロとしての経験と実績と、培った音楽感性を。
そのまんま、アニメの雰囲気を無視して、サウンドトラックに仕上げちゃったのかなー、と。


プロの仕事が、逆に、アダになって作品を台無しにした、珍しいパターンだと思いつつ。


ともあれ。
ノイタミナ枠で見てると、なんとなく。
結局『のだめカンタービレ』の二の舞になるのかなー、とも、思ったり。


アニメを見てるヒトも、アニメを作ってるヒトも。
音楽の何が良いのか、本質的な側面に、まったく興味が無いって気がする。
「今までと違う刺激」の一抹として、ただ、JAZZに目を向けただけ、……みたいな。


それはそれで、また、JAZZなんですけどね。
一時の刹那的な、使い捨ての悦楽。
クラシック音楽は、慢性的で長期的な下地を要する道楽だけど。
ジャズ音楽は、気が向いた時にサクッと楽しむ事も許される遊興だし。
その辺の「軽さ」とは裏腹に、音楽は、ものすごいガチで「重い」ですけれど。(笑)
内容の「軽さ」と音楽の「重さ」のアンバランスも、また、一興。
コレはコレで、『のだめ』とは違って、アリなのかなー、……とか。


ただ。
『カウボーイ・ビバップ』的な意味でのJAZZを、期待するなら。
ボクは『ヨルムンガルド』の方が好きです。
そりゃー、音楽は、パンクと云うか、メタルと云うか、まったく別物ですけれど。
なんだろう。
作品の趣旨の向かおうとしている先が、全体的に、JAZZ。
『ヨルムンガルド』は、そんな気がして『カウボーイビバップ』に似てる。


坂道のアポロン』は、むしろ。
「アニメでJAZZをヤります!」って、方向性を打ち立てているクセに。
のだめカンタービレ』と同ベクトルのクラシック音楽に向かってる気がする。
「JAZZが好きなヒトのやってるJAZZ」では無い、知識と経験に裏打ちされた予定調和の粋。
……だから、音楽としては、とても、とても良いのに。
……それがJAZZか、と、問われれば、凄まじい違和感を感じるのだと思う。


あー。
クラシカル・クロスオーバー・ジャズ。
そう説明されたら、納得する。


「ピアノと打楽器のための即興協奏曲『Moanin'』」とか言われたら、納得する。


けれど。
Art Blakeyの珠玉の名盤、……では、無い。