いっぺんの…

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わが生涯に
一片の悔い無し!


(詠み人 : 武論尊 / 原哲夫


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セミ
この時季、セミの死屍を、そこかしこで見掛けるワケですが。


なんつーか。
ものすごく、物理的に、綺麗な死体ですよね。
……死姦マニア、か、カニバリズム、か。
何にしても、ものすごい変質的かつ危険なコト言ってるぞ。俺。(笑)


えーと。
警察や精神医が見てもボクの人格に語弊が無い様に、一般的な言葉を選びましょうか。


生前の原型を、そのままに。
まるで、眠っている様に。
朽ちもせず、壊れもせず、凛とカタチを保持したまま。


人間の死体にしても、犬や猫の死体にしても、ミミズの死体にしても。
総じて、死体ってのは、醜く、変質(腐敗)する傾向があるワケでして。
その理由は「蛋白質や無機質などが外的に侵蝕される」とか、極めて科学的な理由と云うか。
宗教では説明できない「死」の残酷性を、物理学は淡々と解明してくれるワケでして。


悪習を放つのは、蓄積された老廃物に害虫が巣食うからだ、とか。
肉が削げて白骨化するのは、新陳代謝が停止して「潤い」を保持できないからだ、とか。
善人であれ、悪人であれ、聖人君子であれ王族であれ凡人であれ。
物理を介した科学の理屈は「末期の平等」の理不尽を、理路整然と説明してくれやがるワケですが。


セミ
あいつらの死体って、朽ちませんよね。
まるで、プラスチックみたいに、カッチリと固まったまま。
ディスプレイに展示されて「海洋堂食玩です」とか説明されたら、納得しそうなぐらい、堅固に。
それが、「物理的に綺麗な死体だ」と感じた由縁。


成虫のセミは、とにかく、大音響で高周波の超音を発し続けます。


セミの大きさのスピーカーを、アレだけの大音響で響かせるには。
相当、小型で高電圧のアンプリファを搭載しなければならないワケで。
よほど大容量かつ高電圧のリチウムイオンバッテリーが必要になるワケで。
電力を介さず、アレだけ大音響を発するセミの身体構造。
その正体は、音波を共鳴させるための高性能な振動版(ギターのボディ)みたいなモノであり。


だから、セミの身体の中には、必要最低限の機能だけが搭載されているワケでして。
その実態は、甲殻の外装、と、音源発生装置、と、生殖器、だけなのだそうで。
だからこそ。
死んでも、外敵から侵蝕される要因が無く、綺麗な死体でいられるのだそうです。


セミ
死生に対して不謹慎な発想と知りながら、それでも、見る度に想うコト。
彼らの死は、とても、カッコイイ。